第22回

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「臨床と研究の有機的融合に向けて」

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

森岡  周

 

コロナ禍となり、世界的にもそれによる経済的打撃が大きい。特に、飲食業や観光サービス業は厳しい経営が続き、幾度も収支試算の改訂がなされ、常に比較や予測を繰り返しながら経営方針やサービスの見直しが行われている。私はこの手続きは研究であると考えている。昨年度期あるいは1ヵ月前のデータと比較し、次の1カ月あるいは半年〜1年先の予測値を立てる。そしてどのようなサービスをすれば顧客は戻ってくるのか、あるいは顧客は満足するのか、どのような要因が交絡因子になるのかの仮説を立て、予測値に対して実測値がどうであったか、企業で設定したアウトカムに基づき検証し、そのアウトカムを次の経営・企画方針へと役立てる。こうした手続きは大なり小なりどの企業でも行われているはずである。つまり、研究を実践しているといえよう。そして、その精度の上昇や分析力の高度化は経営の立て直しや発展・進化に貢献できる。このような研究的な思考に基づき経営戦略が立てられ、組織への貢献が生まれる。つまり、現場内に研究(的思考)は根付いているわけである。振り返って理学療法部門において、上記のような研究的な思考は根付いているであろうか。個々のケースに対して、個々の理学療法士が仮説を立て検証する場面は日頃よく遭遇するものの、例えば1年を通してレトロスペクティブに振り返り、どのようなケース・サブタイプがどのような結果となるのかを標準的なアウトカムに基づいて検証し、次の1年に向けて組織全体で臨床指針が改訂されたりしているであろうか。

地球上において、人間は巧みに言語を操作できる唯一の生物である。それはリアルタイムなコミュニケーションで使用する言語だけでなく、記号化され記録として蓄積していくためにも用いる。ある一定期間の記録について分析を行い、次なるある一定期間の予測を立て、顧客ならず患者・対象者のサービス向上に向けた戦略を立てることは、臨床施設を企業と等価に考えるのであれば至極当然のことである。すなわち「臨床と研究の有機的融合」ではなく、臨床業務の中に研究は同居していなければならない。逆説的に言えば、あらためて自らの組織に貢献できない、すなわち臨床業務にとって不要な研究をする必要はないと考える。

その一方で、言語を操作できる人間だからこそ伝承しないといけないことがある。それが症例に関する記録の継続であり、そして言語を使った他者への症例報告である。神経学は脈々と続く症例報告を基盤に発展してきた。誰かが行った症例報告を誰かが利用し、次の症例に役立てる。そしてそれを改変し、複数データに基づくエビデンスに導いたり、最終的には、はじまりは一例報告であったものが世界を巻き込んだイノベーションへと進み、人類・社会に貢献していく。こうした事実を人間である私は常に観察している。本講演では、研究者が行う研究ではない、臨床家が行う研究とは何か?そして、臨床家と研究者がいかに組織を形成するか、つまり「臨床家と研究者の有機的融合」に向けての近未来の理学療法業界のビジョンを提案したいと考えている。

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